表妙義縦走路 参加メンバー:幻舞(単独) 山行計画 2011年4月30日 妙義神社→大の字→辻→稜線登山道→中の岳→第四石門広場→中間道→妙義神社 |
朝5時、目覚ましの電子音に起こされる。「なんでこんな時間に目覚ましが鳴るんだ?」と寝起きの惚けた頭で考えると、昨日仙人師匠と山にいくためにセットしたままになっていた。 いくら何でも起きるのには早すぎるので二度寝しようと思ったが、ここがおじさんの悲しさで、いったん起きてしまうと二度寝ができない。 そこで思いついたのが表妙義稜線。遭難事故の増加で、ルートを整備してもっと簡単に通過できるようにするなんて話もあり、どこまで整備したのか気になっていたのと、午後から出かける予定があるので、遅くとも13時頃には家に帰っていないとまずいので遠出は無理だが、妙義なら今から出発すれば13時には家に帰れる。 家にあったお菓子と水1L、カッパとタオル、ヘッデンをザックに詰めて出発。 さて、ここで「表妙義稜線登山道」についてのうんちくを。 この登山道のある妙義山は「西上州の山」としてくくられている山群の一つで、西上州の山の特徴がもっともよく現れている。その独特の山容は上信越自動車道を走っていると嫌でも目に付く。 妙義山は、大きく「表妙義山」と「裏妙義山」に分かれており、「山と高原地図」に示されている登山道のほとんどが難路を示す「点線ルート」となっている。 特に、表妙義稜線の登山道は、一般登山道としては日本でも指折りの「難路」として知られており、毎年のように死亡遭難事故が発生している妙義山登山道の中でも最難関ルート。 去年(2010年)だったと思うが、「山と渓谷」誌にこの縦走路が取り上げられた。内容は、ここ数年続けて発生している死亡遭難事故について。この記事の中で、この縦走路は一般登山道ではなく、バリエーションルートの範疇に入るとの指摘もあった。 確かに、岩場(鎖場)の険悪さは、やはり難路として有名な「奥穂〜西穂」の縦走路に匹敵するか、私個人はそれ以上であると思っている。 奥穂〜西穂や、剱岳のルートは「難路」とはいっても設置されている鎖に全く手を触れることなく、普通に登り降りできるが、表妙義稜線登山道ではロープを結ばなければとても無理だし、鎖も長いものが多いため、岩場に慣れないトレッカーによく見る「両手で鎖を持って、鎖に頼り切り、手の力で登る」ような登り方をしていると、途中で力尽きて滑落という事態になる。事実、こういうパターンの事故も発生しているらしい。 そのくせ、ホールド,スタンスとも一般登山道の鎖場としてはあり得ないくらい細かく、鎖に頼り切りにならないようにと思っても、岩場に慣れていない人にはかなり難しいと思う。 それから縦走の方向について。妙義の場合、妙義神社側と中の岳神社側の二つの登山口がある。 奥穂〜西穂でも、どちらからスタートした方がいいかよく話題になるが、妙義の場合、妙義神社側からスタートした方が有利だと思う。標高で見れば中の岳神社が上になるので、妙義神社からスタートだと基本的に登りになり、中の岳神社スタートだと下りとなるので、普通に考えれば中の岳神社側スタートが楽なようだが、中の岳神社側からだと「鷹戻し」など、比較的難易度の高い鎖場がが下りになるという問題がある。 最後に装備について。 岩場の登り降りが多いため、極力背中を極力軽くするため、必要最低限しか持たないようにする。幻舞の場合、水1Lにカッパと食料少々、タオルとトイレットペーパー、デジカメ、緊急装備はヘッデンくらい。妙義山のこの時期(GW)なら、カッパを羽織れば一晩くらいは何とかなる。 足はローカットのトレッキングシューズがお勧め。幻舞はファイブテンのアプローチシューズを愛用している。岩場が多いので、登山靴よりも足首の自由がきいて、岩場のグリップがよいアプローチシューズのほうが歩きやすい。 うんちくはここまでにして、 |
6時に登山開始、5分ほど歩いて「車のドアはロックしたっけ?」とふと思いつき、気になって引きかすが、ちゃんとドアはロックされていた。 妙義神社境内にある登山口から「大の字」まではごく普通の登山道。登山口から約30分くらい。 大の字へは簡単な鎖で登れる。眺めはいいが、この先にももっと眺めのよいところがあるし、まだ先は長いので記念撮影程度にしてサラッと通過。 |
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妙義神社側の登山口 | 大の字を裏側から |
大の字から約5分で「辻」の分岐に到達。辻はT字の三叉路で、稜線登山道への分岐になっている。 ここまではごく普通の低山一般登山道だが、ここから稜線登山道へ入るといよいよ点線ルートへ足を踏み入れることになる。 黄色のペンキで書かれた「キケン上級コース」は嘘じゃない。 分岐してすぐ、いきなりの鎖が登場するが、ここはごく簡単なので、もしここで鎖に頼らなければ登れないようならこの先に進むのは考え直した方がいいかも。 |
辻から約5分。いよいよ最初の難所「奥の院の鎖場」が登場する。 高さは目測で約20m。RCCグレードでV級くらい。 下側の2/3は、角度もあまりないし、ホールド,スタンスとも豊富なので、クライミング経験のある人なら、鎖に手を触れなくても、いわゆる「フリーソロ」で登れるが、上側1/3は高度感が出てくるのと、ホールド,スタンスが細かくなり、どうしても鎖に手が伸びる。 稜線登山道の遭難対策として、難所を整備して、簡単に通過できるようにするという計画があるようだが、それよりもここと、中の岳の鎖を撤去するのが効果的だと思う。 ここと中の岳から鎖がなくなれば、それなりの技術や装備を持った人しか先に進めなくなるので、入り口で自然に登山者の篩い分けができるし、鎖がなくても登れれば、その先も問題なく歩けると思う。 ハッキリ言って、誰でも歩ける表妙義稜線登山道なんて、ただの低山歩きになってしまって何の魅力もない |
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奥の院の鎖場を過ぎ、簡単な鎖場2カ所を通過すると「見晴らし」。 |
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左の写真の岩場を登ると「見晴らし」ペイントマークの矢印があるくせに、通行止めのトラロープが????だが、確かにここを登るのはちょっと怖い。 写真に写っていないが、足元がスッパリと切れ落ちていて、ホールド,スタンスが細かく、滑ったら一巻の終わり。 「見晴らし」の名のごとく、ここらからの眺めは最高。 ここまで約1時間なので、最高の休憩ポイントとなる。 |
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見晴らしから先に進むと、すぐに「ビビリ岩」の鎖場になる。 登山道は写真に写っている所のみで、その先はスッパリと切れ落ちた絶壁。 鎖は登山道が切れ落ちた所から上に登るように付いていて、取り付き部分は細い登山道しかないため、もし落ちたら数百mをダイビングすることになる。 また、取り付きから見上げると、下4mは若干被って(ハングして)見えるので余計に怖いが、実際は垂直か若干寝ているくらいだし、ホールド,スタンスともにしっかりした物があるので、落ち着いてよく見れば簡単に通過できる。 |
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ビビリ岩の鎖場を上から写したもの。 下側の垂直部を登ると写真の角度の緩い岩壁になるが、こちらは岩が細かくて、角度はないが下側よりも難しく感じる。 ビビリ岩を通過すると、途中一カ所の鎖場を越えて「大のぞき」の30mの滑り台となる。下3枚の写真がそれ。 |
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この標識が目印で | ここは数年前まで鎖が設置されていな かった所。鎖なしで降りるのはかなり 怖かった。 |
これが30mの滑り台。高さはあるが 角度はないので、登りなら鎖なしでも 登れる。 |
鎖場の写真ばかり紹介したので、鎖場以外の状況を。 まあほとんどはこんな感じ。ごく普通の低山登山道。 前は、登山道ではない妙に明瞭な踏み跡があり、ルートミスの原因となっていたがペイントマークやテープが充実し、正しいルートが簡単にわかるようになった。 |
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いったんタルワキ沢のコルに降りるとタルワキ沢への分岐となる。ここから先は更に難易度が高くなるため、ここまでのルートで不安を感じたら迷わずタルワキ沢へエスケープすることをお勧めする。 無理して進んで、万が一のことがあったら取り返しが付かない。たかが「遊び」に命を賭けるなんてナンセンスだ。 タルワキ沢の分岐を過ぎ、このルートの中間点「相馬岳」へ登り返す。幻舞の足でタルワキ沢の分岐から相馬岳まで約10分。スタートから相馬岳までにかかった時間で、この先にかかる時間がだいたい読める。ここまでにかかった時間を1.2倍すれば、この後中の岳山頂までにかかる時間となる。(あくまでも幻舞の経験上のことで、人によっては当てはまらない可能性もあるので注意) 幻舞の場合、ここまで2時間というのが標準的な時間。よって、全体の縦走には4時間半くらいかかることになる。 ここから先もアップダウンが続くので、ここまでに4時間近くかかっていたら、体力的に問題有りと判断し、やはりタルワキ沢からエスケープした方がいい。 足の疲れがある程度以上になると踏ん張りがきかなくなり、ちょっとしたことでバランスを崩すことがある。木の根につまずいてバランスを崩して滑落なんて、それこそ物笑いの種だ。 |
相馬岳からザレた登山道をコルまで下り、国民宿舎ルートの分岐を示す道標の所にこの注意書き看板がある。 この看板から先が「バラ尾根」になる。 |
バラ尾根への下り。小さな浮き石で滑りやすく、立木も細くて 頼りなかったり、根が浮き上がっていて、今にも倒れそうだった りで緊張する。 個人的には、このルートで一番嫌なのがこの下りだ。 |
ちょうど満開だったアカヤシオ。 | 山と高原地図にある、このルート唯一の水場がこれ。まあ飲ん で飲めないことはないけど、水量が少なすぎて水筒に補給するの は無理。 |
落ち葉のプール。いつ行ってもこんな状態 | バラ尾根のピーク直下。この岩のトンネルをくぐると「バラ尾根のピーク」ここも絶好のビューポイント。 時間に余裕があれば、ここだけはノンビリと景色を眺めて過ごしたい。 |
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← 左の写真が「ホッキリ」の分岐。鷹戻し前の最後のエスケープルート。 ここから鷹戻しまで約20分くらいなので、鷹戻しを実際に見て不安を感じたらここまで引き返すことをお勧めする。 → ホッキリを過ぎ、右のようなトラバースの鎖場を2カ所越えると、いよいよこのルートの最難関「鷹戻し」になる。 |
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「鷹戻し」か「鷹返し」か 最難関の「鷹戻し」だが、「鷹返し」という人もいる。 道標も、鷹戻しだったり鷹返しだったりと両方の呼び方が書いてあるが、圧倒的に「鷹戻し」と書いてある方が多いので、正しいのは「鷹戻し」なんだと思う。 たぶん、「戻す」から「返す」を連想して鷹返しと呼ぶ人がいるんだと思う。 |
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この鎖が「鷹戻し」の入り口。高さ10mくらいで、ここはまだほんの小手調べ。 | サビサビの鉄ハシゴ。このハシゴの上からが本格的な「鷹戻し」の難所となる。 このハシゴがいつ設置されたのか正確なことはわからないが最初の鎖に付いているプレートに、鎖が設置されたのが昭和30年代らしきことが書かれているので、鎖と同じ頃に設置されたとすると、設置後半世紀近く経過していることになる。 実際、岩壁に打ち込まれているアンカーは、かなりボロボロになっている。 |
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鉄ハシゴを登るとテラスになり、2段目の鎖がある。高さは約10mでほぼ垂直に見える。 上部で左にトラバースして、写真の一番太い灌木のところでテラスにでる。 トラバース部が高度感があって下を見ると怖い。 |
3段目の鎖場。ここは簡単に登れる。上に見える灌木帯で狭いテラスになる。 | |
この鎖が「鷹戻し」の核心部。フリーで登ればRCCグレードでVからV+くらい。 高さは25m。角度は緩いが、ホールド,スタンスともに細かく、かつ高度感が凄まじいため、かなりスリリングな登りとなる。 高さもあるので、両手で鎖を持ち、鎖に頼り切ったような登り方だと途中で力尽きて滑落なんてことになりかねない。 片手で鎖、片手で岩のホールドを掴み、あくまでも足で登る。 この鎖を登り切ってしまえば「鷹戻し」は事実上終了。最後にトラバースがあるが、ここは足場もしっかりしていて、ここまで登ってこられたひとなら全く問題なし。 |
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最後の難所、2段の鎖場。特に2段目は下部が若干ハングしていていやらしい。 |
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← ここの鎖は新設されたもの。いくらなんでもここに鎖は必要ないと思う。 鎖がないとここが登り降りできない人レベルでは、そもそも稜線の縦走は無理。 東岳に新設された鎖の全景。 → |
(妙義神社側から数えて)1段目の鎖。 |
2段目。前はトラロープが下がっていた。 | |
2段目の鎖の上部 | 通過後に振り返って撮影。水平部分にも鎖。なんで??? |
東岳の鎖に関しては、ここは妙義神社側から縦走してくると登りとなり、高さも3〜4mくらいしかないので、個人的には鎖の必要性は感じない。 逆側から縦走すると下りとなるが、ここが鎖がないと安全に下降できない程度の技術レベルの人は、そもそもこの先に進むべきではないと思う。 この縦走路での遭難原因に「鎖場で力尽きて滑落」というのがあるが、本来、この縦走路を歩くのに必要な技術を備えていない人が入り込んでの結果であるように思われる。 「ではどのくらいの技術が必要なのか?」「そもそもおまえ(幻舞)にそんなことを偉そうに言えるだけの技術があるのか」と言われれば、明確に「これ以上ならOK」とも言えないし、偉そうなことを言えるだけのスキルも持っていないが、遭難事故防止を理由として難所が整備され、誰でも簡単に通過できるようになってしまうのは非常に残念なことだと思う。 山歩きの楽しみ方は人それぞれで、いろんな考え方や楽しみ方があるが、初心者向きと言われているルートから始まって、3000m峰の頂を目指し、テン泊縦走や雪山など、順を追ってより難易度の高いルートに挑戦していくのも楽しみの一つであると思う。 表妙義稜線の縦走路は、そんなより難易度の高いルートを目指す登山者の、目標の一つとなるルートではないだろうか? このルートの魅力は、なんと言っても「難易度が高い」ということにつきる。だからこそ、その難易度の高さに憧れてチャレンジし、「表妙義稜線の縦走路を歩けた」という自分の技術レベルを示す指標になるんだと思っている。 それが、ルートが整備され、だれでも簡単に歩けるようになったら、特に景色がいいわけでもないし、綺麗な花の群落があるわけでもない。唯一秋の紅葉くらいしか見どころのないこのルートは、どこにでもあるだたの低山歩きとなってしまい、何の魅力もなくなってしまう。 これ以上のルート整備がなされないことを切に願う。 |
東岳を過ぎれば難所も終わり。中の岳山頂が縦走路の事実上のゴール。 しばし景色を眺めつつ、まったりと過ごし下山にかかる。 下山は、第四石門の広場から中間道を歩いて妙義神社に戻る。 |
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このルートが快適なのは、地元(群馬県富岡市)に桜の開花宣言が出された頃から若葉の季節までと、秋の紅葉シーズン。歩く気なら降雪直後を除けば一年中歩けるが、冬は風が強くて寒いし、夏は標高が低いだけに蒸し暑く、葉っぱが茂って展望も効かなくなるし、登山道に蛇も多く出るようになるなど、あまりお勧めできない。 それから、下山方法について。もしコンパクトに折りたためる自転車をお持ちなら、自転車を車に積んで、あらかじめ中の岳神社の駐車に自転車をデポ。帰りはデポしておいた自転車で車道をかっ飛ばすのが楽で早い。 最初にちょろっと登りがあるが、後は下る一方なので、妙義神社の駐車場まで20分くらいで戻ることができる。ちょーしにのって飛ばしすぎて事故らないように要注意(笑) 最後に、このルートのコースタイムは、幻舞の持っている2001年版の山と高原地図では9時間近くになっていると記憶しているが普段コースタイムよりも1〜2割早いくらいのペースで歩いている人なら6時間あれば歩けると思う。 自信のある方は、「最難関の一般登山道」を一度楽しんでみたらいかがだろうか? |