奥穂高岳〜西穂高岳縦走

2009年8月15日〜16日

参加メンバー:幻舞,幻舞Jr(息子です)
 
 奥穂〜西穂の縦走路は「北アルプス最難関の縦走路」などと言われており、このルートに憧れるトレッカーは少なくないと思う。

 しかし、雑誌やガイドブックなどでことさらに難易度が高いことが強調されるため、信頼できる山仲間に連れて行ってもらうとか、自分の技術にそれなりの自信を持っているとかならまだしも、山をはじめた頃の幻舞のように「単独,独学」や、信頼できる仲間がいないとかだと、このルートに足を踏み入れるのにはそれなりの決心がいると思う。

 実際、mixiで目にした書き込みには、
「このルートに挑戦するのは、今からトレーニングをはじめて何年後の夏になるか」とか「天性のバランス感覚が必要」とか「仲間同士助け合っては許されないルート」などなど、(幻舞に言わせれば)とんでもない大げさな表現がされていた。

 で、実際の所はと言うと・・・・・(あくまでも幻舞がこのルートを歩いて感じたことであるが)
「他の北アルプスの縦走路と比較して確かに難易度は高いが、さりとて何年もトレーニングを積まなければ行けないとか、他の縦走路では必要とされないような特別な技術(クライミングやルートファインディングなど)がいるとかいうようなレベルではなく、あくまでも一般縦走路」だ。

 また、そう判断したからこそ、登山に関しては全くの素人である当時高校2年生だった息子を平然と連れて行ったわけで、もしmixiの書き込み通りの高難易度ルートだったら、絶対に大事な息子を連れてなんて行けない。

 ちなみに、この時の息子の登山経験は、谷川岳西黒尾根レベルの日帰り登山が延べ10日くらい。テン泊だと白馬岳〜唐松岳が1回とこの前年に槍〜西穂テン泊縦走をもくろみ、槍〜穂高岳山荘までは予定通りだったものの、肝心の3日目に悪天候のため白出沢へエスケープした2泊3日の山行が1回。

 あとは、クライミングジムに5〜6回連れて行ったのと、アイスクライミングに3回連れて行ったくらい。しかも、これらの経験は小学校5年生くらいの時から高校2年生までの7年間の経験で、2〜3年の間に集中した山行ではないため、実力的には全くの素人と言っていい。取り柄はとにかく持久力があることくらい。


 繰り返すが、あくまでも幻舞が歩いてみて感じたことであって、これを読んで出かけていってなにかあっても一切責任は取れないので承知しておいて欲しい。
 



 奥穂〜西穂縦走路について

 1,難易度(岩が乾いていて、奥穂山頂からジャンダルムがハッキリと見えるだけの視界があることが前提条件です)

 次なるステップアップとして、初めて奥穂〜西穂の縦走をするにあたって一番気になるのが「自分のレベルで安全に縦走ができるか?」ということであると思う。

 このルートの特徴は、手も使って登り降りするような岩場が多いこととガレ場が多いこと。しかし、一つ一つの岩場については、剱岳や大キレットなどと比較して特に難易度が高いとは思えないし、ガレ場も、慎重に通過しないと足元が崩れて一巻の終わりなんてレベルではなく、石を落として下方にいる登山者に怪我をさせないように注意が必要という程度。

 ルートファインディングに関しても、登山道は明瞭だし、岩稜で踏み跡が付かないところはペイントマークが付いているので、ペイントマークを見つけられればOKだし、ルートは稜線に付いているから、ペイントマークを見失ってあちこち探しまくるなんてこともないし、仮に見失ってもちょっとキョロキョロすればすぐに見つけられると思う。



 2,奥穂 → 西穂 か 西穂 → 奥穂 か

 これを書いている幻舞は、奥穂→西穂方向にしか縦走したことがないが、難易度に関してはどちらからでも大差はないと思うので、好きな方から歩けばいい。

 幻舞が奥穂→西穂なのは日程の問題から。

 幻舞の場合、地理的に入山は上高地からになるが、朝一番のバスで上高地に入れば、ゆっくり歩いても14時には穂高岳山荘に到着できるので、翌日に穂高岳山荘〜奥穂高岳〜西穂高岳〜西穂山荘と歩き、14時頃には上高地に降りられる。ということで、奥穂〜西穂は1泊2日の山行となるが、これが逆方向だと、初日に西穂山荘まで登って西穂〜奥穂〜穂高岳山荘はいくら何でもちょっときつい。

 頑張れば行けないことはないが、それでも穂高岳山荘に着くのは16時とかになってしまうと思う。順当に考えれば、初日は西穂山荘まで。翌日に西穂〜奥穂〜穂高岳山荘もしくは涸沢泊で3日目に上高地となるので、西穂〜奥穂は2泊3日の山行となる。

 しかも、この2泊3日は、初日と3日目が時間を持てあまし非常に効率が悪い上に、天気予報の確率が下がる3日目があることから、雨に降られる可能性も高くなる。

 それから、奥穂→西穂をお勧めするもう一つの理由が、このルート最大の難所「馬の背」がスタート直後にあるということ。これによって、このルートを縦走するのに十分な技術があるか確認することができる。

 奥穂側からだと馬の背がより難易度の高い下りになるため、馬の背を難なく通過できればその後はまず問題なく歩けると思う。

 逆に馬の背の下りで「もうこんな怖いところ二度と通りたくない」と感じたとか、全く余裕はなく、必死なってやっとの思いで通過したとかであれば、自分にはこのルートを縦走するに十分な技術はないと判断し、この先に進むのは諦めて奥穂まで戻り(馬の背は登りになるので無理なく戻れると思う)吊り尾根から前穂〜重太郎新道〜上高地等、ルート変更を考えるべきだ。



 3,装備

 当たり前であるが、背中は軽いに越したことはない。特に手も使うような岩場では、背中が重いとバランスが取りにくくなるので、少しでも不安があれば小屋泊まりにして背中を極力軽くするべきだと思う。

 あと気になるのが登山靴で、幻舞も以前はセミワンタッチアイゼンが装着できるかなりガッチリした登山靴で縦走していたが、あるとき財政的な理由(笑)から、ローカットの安っぽいトレッキングシューズでテン泊装備を担いでこのルートを縦走したところ、ソールが柔らかいため岩場で滑りにくく、非常に快適に歩けたことがある。

 これ以降、残雪や酷い泥濘などの心配がない時はもっぱらローカットの「アプローチシューズ」を履いている。ただし、人によって感じ方は様々なので、何処か簡単なルートで試してみてからの方がよいと思う。

 それから最近は、このルートを縦走するときはヘルメットを被るのが一般的になりつつあるようで、横尾あたりでどう見てもクライマーに見えない人がザックにヘルメットをぶら下げて歩いているのを多く見かけるようになった。

 この辺はそれこそ人それぞれの考え方だが、少なくともモスバックのメンバーでこのルートを縦走するのにヘルメットを持っていく人はいない。




                  あてにならない講釈ははこのくらいにしておきます。
 
  8月15日

 天気は快晴。初日は上高地〜横尾〜涸沢〜ザイテングラード〜穂高岳山荘なので単なるピクニック。

 一応、14時頃までに穂高岳山荘に到着しないとテン場のいい場所が無くなってしまうので、余裕を見て13時頃までには到着するように行動する。

 途中、涸沢ヒュッテでラーメンなど食し、ザイテングラードでは重い方のザックを息子に背負わせ、結局途中でばてて再びザックの交換などしつつ、穂高岳山荘でテントを張ったのが12:30頃。

 夕方より雨。3000mの星空を息子に見せたかったが残念。
   
     
  8月16日

 昨夜から降り続いていた雨も未明にやんで、予定通り縦走できそうだ。

 このまま天気が回復しなければ、予定を変更して前穂〜岳沢で下山なんて考えていたので、2年続けて敗退とならずに済んでホッとする。

 4:40に出発し、奥穂山頂が5:16。まずまずのペース。ちなみに、この日の息子のザックは5〜6kg。

 息子の筋力と岩場でのバランスを考え、背中を軽くした。

 奥穂から「北アルプス最難関ルート」となるが、ここからは息子を先行させる。

 ルートも息子に任せ、技術的なアドバイスはしないことにした。
 5:16

 
   
で、ここが馬の背。  高度感が凄いので高さに慣れない人は怖いかもしれないが、ホー ルド,スタンスともに豊富なので、技術的には簡単。


 ここから先の下りが核心部。とにかく、高さに惑わされず、冷静にホールド,スタンスを探すこと。

 ちゃんと落ち着いて見れば、そんなに難しい岩場ではない。

 両側が切れ落ちているため高度感が凄まじく、高さに慣れない人だと、この高度感のせいで実際以上に難しく感じてしまうようだ。

 写真に写っている他の登山者はヘルメットを被っている人が多いが、被っていて悪いことはないので、持って行くのが苦にならなければ持って行けばいいと思う。

 幻舞もヘルメットは2つ持っているが、特に必要性は感じないので持って行ったことはない。
 
   

 馬の背を過ぎると、いったん下ってロバの耳への登りになる。

 小さく登山者が写っているが、写真だと「こんな所の何処にルートが?」って感じに見えると思う。

 登山者は、下1/4くらいの真ん中に写っている。
   

 近くに行けばこんな感じ。普通の岩場。素人の息子も、特にルートに迷うこともないし、緊張するでもなく、ただ普通に歩くより楽しかったようだ。
   
鎖はあるが、手がかりは豊富なので、鎖がなくても登れる。


 こちらの下りも鎖に頼らなくても降りられる。岩場の難易度は何 処もこんな程度。 
 

 ルートはジャンダルムの基部を上高地側に巻く。左の写真が正規の登山道で、ジャンダルムへは西穂側から登る。

 西穂側から登る場合は基部にザックを置いて、空身でジャンダルムに登って景色を楽しむというのが一般的。

 我々は奥穂側から直登してジャンダルムへ。奥穂側からの直登はルートが無いので、自分でルートを判断する必要がある。

 さすがにここは息子にルートを指示。直登は、ルートの取り方で難易度が大きく変化するので、自分でルートの判断ができないレベルの人は避けた方がいいと思う。

 ジャンダルムを直登したので、先行していたガイド登山のパーティをここでパス。

 以下、左から右へ時系列順に写真を並べてみる。
   
 6:26
こういう岩場は踏み跡が付かないのでペイントマークに従って進む

6:33 
   
 7:07
このようなガレ場が多いが、落石にさえ注意すればOK
7:13
唯一のエスケープルートだが、それなりに難路らしい。

   
              7:37
写真を見ると「何処にルートが?」って感じに見えるが、行ってみればたいしたことはない。
7:37

 
   
 7:41               7:56 
逆層のスラブ。一見すると怖そうな所だが、角度が無いため実際に行ってみるとたいしたことはない。
クライミングシューズなら、下を向いて普通に歩いて降りられるかも。

   
 8:00
間ノ岳への登り??だと思う。
                  8:01
間ノ岳へ登る途中に逆層のスラブを振り返って見る。写真だけ見れば、かなりの難所に見える。
 
   
8:22                    9:14
ここまで来ればあとは何処にでもある縦走路。あまりおもしろみもないので、西穂山荘までがやたらと長く感じる。

 奥穂高岳山頂から西穂高岳山頂まで約4時間。西穂山荘が10:50なので、穂高岳山荘から西穂山荘までだいたい6時間くらい。

 素人の息子でも、なんのアドバイスをしなくても全ルートを通じて普通に歩いていた。息子が特別運動神経がいいとか、バランス感覚が優れているとかいうことではなく、要は「その程度のルート」ということ。

 手も使って登り降りするような岩場は他のルートよりかなり多いとおもうが、岩場一つ一つの難易度は、大キレットとか剱岳別山尾根の岩場と差は感じない。

 また、ルートもペイントマークがしっかりしているので、奥穂山頂からジャンダルムがハッキリと見えるくらいの視界があれば、特にルートに迷うようなこともないと思う。 現に、ルートファインディングなんて言葉も知らない息子でも、ルートを探してキョロキョロするようなこともなかった。



 
mixiで大騒ぎしている人は、このルートは技術が優れ、経験豊富なベテランじゃないと歩けないルートで、そんな高難度のルートを歩けた自分のレベルは「上の上」だと考えているんだと思う。

 であれば、ことさらに「難路」を強調するのもうなずける。裏を返せば、その難路を歩けた自分は凄いんだぞーーーーという自慢になるし、逆に「別にそんな大騒ぎするほど難しくないよ」ってことになったら、この人の「上の上」という根拠はもろくも崩壊してしまう。

 一般登山道のみの山歩きだと、自分のレベルを客観的に判断できる指標みたいなものがなくて、登山歴が長いほどレベルが高いみたいな見方をされてしまっているようだが、本当の山の技術の差は、修羅場をくぐり抜けてきた経験の差だと思う。

 腰までのラッセルが延々と続き、自分のルート判断を信じてひたすら進む。−15℃、風雪の岩壁でのビバーク。滑落の恐怖に耐えながら、ピッケルの一差し、キックステップの一歩を信じてナイフリッジと化した雪稜を行く。(もちろん幻舞にはこのような経験はありません。

 あくまでも幻舞の経験からだが、一般登山道の、ましてや無雪期で経験できることなんてたかがしれている。(一般登山道でも、あえて大荒れの天候の中を行動すれば修羅場は経験できるだろうが、普通こんな馬鹿なことをする人はいないだろう)だから、
無雪期の一般登山道なんて、登山歴5年の人と20年の人とを比べても、登った山の数が違うだけで、技術的な差なんてほとんどないと思っている。




 ここまで「あくまでも一般縦走路」と言い続けてきたが、これは
「十分な視界が確保されていて、岩が乾いている」という前提での話で、濃いガス等で視界が悪くなればルートを見失う可能性が高くなるし、言うまでもなく岩が濡れれば簡単にスリップしてしまう。

 このルートは「バリエーションルートはやらないけれど岩場は大好き」という方には超お勧めルート。天気の良い日を選んで計画を立ててみてはいかがだろうか?



 



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