谷川岳 マチガ沢東南稜 

参加メンバー:仙人,幻舞

2011年 5月15日  マチガ沢〜東南稜〜トマの耳〜天神尾根〜ゴンドラ

装備

個人装備
アイゼン,ピッケル,クイックドロー4コ,カラビナ6コ,ロックビナ4コ,120cmスリング2本,60cmスリング4本
ATCガイド,ハーネス 

共同装備
ロープ(シングル50m×1本),ハンマー,ハーケン2コ,ジャンピング,リングボルト2コ 
 
 今回のマチガ沢東南稜は「3度目の正直」となる。1回目は登山届けは提出したものの、悪天候のため早々と中止、2回目はマチガ沢の途中までは登ったものの、アクシデントで途中敗退。

 マチガ沢東南稜を登攀する場合、ネットで検索する限りでは秋に登ることが多いようだが、秋のマチガ沢は「沢登り」の要素が多少有り、条件によってはアプローチシューズでの滝登りを強いられる場面も出てくる。

 前回のアクシデントも、濡れた岩が原因だったため、沢が雪渓で埋まり、かつクレパスが少なく、取り付きまで比較的簡単に雪渓を登っていけるこの時期を選んだ。

 この時期、一番警戒しなければならないのは言うまでもなく「雪崩」であるが、雪崩を警戒した入山禁止期間も過ぎているし、例年この時期は、落ちるべきブロックはほぼ落ちきっていることから「雪崩に遭う確率は低い」と判断した。

 しかし、あくまでも確率であるため、万が一の雪崩を警戒し、行動開始時間を早くすることとした。

 4:30谷川岳ベースプラザを出発、時期的にマチガ沢出合いまで車で行けるかも?と期待したが、残念ながら登山指導センター前で通行止め。マチガ沢まで車道を歩く。

 5:00マチガ沢出合い。途中までは巌剛新道を進むが、雪解け水で登山道は「沢」のようになっている。無雪期にマチガ沢に入る場合は、巌剛新道の第一見晴らしから沢に入るのが一般的だが、フラットな雪面となっている沢のほうが歩きやすそうだったので、灌木が薄くなっている所を見つけ、早めにマチガ沢に降りた。

   
マチガ沢出合いより  雪解け水で沢となった巌剛新道 雪原と化したマチガ沢
   
 

 マチガ沢も、このあたりはまだ斜度もなく、雪も締まっていて非常に歩きやすい。

 天気もいいし、他にもパーティがいるかと思ったが、今のところ我々の他に人影はなく、景色を眺めながら快調に登る。


 
   
雪崩により倒された灌木や熊笹  下流を写す。正面の壁が第一見晴らしからの下降点
   
   


マチガ沢出合いから約1時間で、土で汚れたデブリ帯に到達。ここから斜度が増し、ピッケルのお世話になるようになる。

 下から見ると、デブリ帯は短い距離に見えたが、実際に登ってみると予想以上の長さだった。

 このデブリ帯を過ぎると、斜度は一気に増してくる。
 


 正面に目指すマチガ沢東南稜が見える。このあたりは斜度は増してくるが、クレパスもなく、快適な雪渓歩きが続く。


 出合いから約2時間。ますます斜度は増し、クレパスも口を開けているようになるが、雪渓全体を横切るような大きなクレパスはなく、まだ余裕がある。

 ちょっとわかりにくいが、雪面に巨大な轍のような溝が2本縦に走っている。

 この時は雨で雪渓の雪が溶かされ、水が流れることによりU字状になったものと思っていたが、この20分後に戦慄の理由を知ることとなる。

 この辺から、昨日のものと思われるトレースが残っていた。最初はハッキリしなかったが、登るにつれてハッキリとしたステップになっていたため、ありがたく使わせていただく。


 上の写真を撮影したのが6:48。この直後だったと思うが、西黒尾根側(左側)の斜面から軽自動車のタイヤ大の雪がバラバラと転がり落ちてきた。

 最初に「カラカラ」という感じの音がして、かなり上の方に転がり落ちる雪塊が見えた。いったん雪塊は見えなくなったので、上の方で止まったと思っていたが、そのまま我々の方に向かって一直線に転がり落ちてきた。

 なかでも比較的大きな雪塊が、幻舞めがけてまっしぐら。そのままでは激突は必死で、この大きさの雪塊が直撃したら、最悪骨折もあり得るため、大慌てで左に飛び退いてかわす。

 そのひょうしにアイゼンをズボンの裾に引っかけ、買ってからまだ3回しか洗濯していない新品同様の登山ズボンが無残にも20cmほど引き裂かれてしまった。

 幻舞は、身長176cm,体重62kgという痩せ形体型のため、サイズの合う登山ズボンはモンベルだけがラインナップしているS−Lサイズしかなく、しかもこのサイズは生産量が少なくて、早めに注文しないとすぐに品切れになってしまうという貴重品。今回引き裂いたズボンもS−Lサイズはすでに売り切れ。(その前に先立つものがすでにからっけつ)

 ショックもさめやらぬ中、涙目になりながら雪渓を登っていくと、7:12に「ゴーーーーッ」というジェット戦闘機のエンジン音のような音が聞こえた。

 飛行機かと思い、空を見上げるがそれらしき機影はなし。視線を西黒尾根側の斜面に移すと、その目に飛び込んできたのは茶色い雪煙と轟音ともに、もの凄い速さで流れ下る
雪崩だった!
 
 
 繰り返すが、この雪崩の写真を写したのが7:12。この雪崩は、先ほど幻舞が「ズボンを破いた」と涙目になっていた所をあっという間に流れ下っていった。

 最初に転がり落ちてきた雪塊は、この雪崩の前兆だったのだ。6:48に写真を一枚写し、そのすぐ後に雪塊が転がり落ちてきたので雪塊をかわしたのがおそらく6:50頃。

 ということは、我々がわずか20分前に通過したところをこの雪崩は駆け下っていったことになる。この雪崩に巻き込まれたら、とても命を保てるとは思えない。

 もし、出発があと20分遅かったら。もし途中でもう少し長く休憩していたら・・・・・今考えてもゾッとする。

 雪崩は、前の写真の「巨大な轍状の溝」を駆け下り、我々が1時間以上かけて登ってきた斜面を、わずか数秒で通過していった。あの轍状の溝は水の流れによって削られたものではなく、雪崩によって削られてできた溝だったのだ。

 我々は非常に幸運だったとしか言いようがない。


 
 ここまで来ると、雪渓を横断するクレパスが口を開け、わずかにブリッジになった部分をビクビクしながら渡る。

 細かいライン取りは仙人が指示。やはり状況が厳しくなればなるほど、経験と実績がものを言う。

 本で読んだ知識をひけらかし、あたかも自分の経験かのごとく講釈を並べ立てる輩もいるが、そういう輩とは同じ一言でも重みが全く違う。

 東南稜の取り付きは、写真中央よりやや左よりの顕著な凹角。取り付きまで一直線に登っていきたいところだが、取り付き手前の雪の状態が悪くて直登は無理。

 左側に回り込むようにして岩壁の基部に達し、やっと安全圏に到達して一安心。基部を取り付きに向かって右にトラバース。

 このトラバースが悪く、ここでロープを出す。
1ピッチ目を見上げたところ。

 取り付き直前の雪壁がかなり悪く、最後まで気を抜けない状態が続いた。

 登山靴からクライミングシューズに履き替え、本来ならここからが本番だが、この日はもう雪崩の恐怖から無事に脱した安心感からもうすっかり終わったような気分になっている。

 幻舞リードで登攀開始。岩は雪解け水で濡れており、おまけにコケか何かが付いているらしく、まるで氷のようにツルツルに滑る。

 もう考えるまでもなく、垂れ下がっているお助けロープで当たり前のようにA0。

 この直後、今度は東尾根側から大きな雪崩が発生。30分前に雪崩の写真を写していた場所を流れ下っていった。本日2度目の命拾い。
 
  1ピッチ目終了点より下を写す。

 終了点がハッキリせず、適当な所でピッチを区切る。岩が乾いていれば快適なW級だが、濡れているとかなり怖い。 
 

2ピッチ目を見上げる。

 仙人リード。このピッチもあいかわらず濡れまくっている。ヌルヌルの岩壁でリードは非常に辛い。 
3ピッチ目。

 幻舞リード。2mほど登ってから草付きのバンドを左にトラバースしてリッジに出る。

 トラバースせず、そのまま直登してもリッジに出るようで、お助けロープが何本が垂れ下がっていたが、直登は乾いていてもかなり手強そうなのに、本日はあいかわらず濡れまくり。

 当然、簡単なトラバースルートを選択。

 リッジに出てしまえば、あとはU〜V級程度で簡単。その分残置ハーケンは少ない(ほとんど無い)が、国境稜線に出るまで、とにかくリッジ通しで登ればいいのでルートは間違えようがない。

 
リッジの状況。  トマの耳 
 
 熊笹の踏み跡をたどる所でロープは必要ない状態だったが、ロープをしまうのに広い場所の方が楽なので、国境稜線までロープを引きずりながらコンテのような、スタカットのようなどっちつかずでトコトコ歩き、稜線の登山道に出たところで登攀終了。

 適当にザックに詰め込み、トマの耳で景色を眺めつつ、腹ごしらえなんぞしつつ、ザックの整理をすることにして、ひとまずトマの耳まで行ってから大休止。

 この頃になって、やっとトマの耳に登山者の姿が見えるようになってきた。みなさんスタートが結構遅いみたい。

   
トマの耳からみた東南稜  稜線のブロック。 今にも落ちそう。


 下山は西黒尾根の予定だったが、軟弱幻舞が「天神尾根にしましょう」と泣きを入れ、天神平からゴンドラで下ることに変更。ゴンドラの天神平駅について「やれやれ」と思ったらなんか様子が変。

 なんと、ゴンドラが故障して修理中とのこと。どうしようかと再度相談していると、原因はわからないがとりあえず動くようになったとの説明があり、あと15分ほどで乗車できるとのこと。

 多少不安が残る説明ではあったが、待たせて迷惑をかけたので運賃はいらないということで、ありがたく無賃乗車させてもらうことにしたが、なんともアクシデントの多い山行であった。




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