北鎌尾根 参加メンバー:仙人,幻舞 行動計画 2011年8月11日:上高地〜槍沢〜水俣乗越〜天井沢下降〜北鎌沢出合い 12日:北鎌沢出合い〜北鎌沢〜北鎌尾根〜槍ヶ岳 13日:槍ヶ岳〜槍沢〜上高地 装備(北鎌尾根用) ヘルメット,ハーネス,カラビナ,ATC,ロープ(8.5mm×50m),スリング,ヌンチャク *今回は、おまけとして3日目に子槍の登攀を計画(当日中止した)したため子槍登攀用のクライミングギアも担いでいったが、北鎌尾 根だけであれば、ヘルメットとルートミスしたときの対応に懸垂下降できる装備があればよいと思う。 |
8月11日(晴れ時々曇り) 水俣乗越の分岐に12時頃到着。我々以外にもヘルメットをザックにつけたパーティが休んでいる。この場所でヘルメット装備だとほぼ北鎌目当てと考えて間違いない。(とこの時は思っていたが、最近は槍〜奥穂〜西穂でもヘルメット装備が多いようだ) 水俣乗越にむけてえっちらおっちら登りはじめてまもなく、分岐で休んでいたパーティが抜いていった。 やっとこさ水俣乗越まで上り詰め、休憩していたこのパーティと話をすると思った通り北鎌尾根だとのこと。 ここから先、天上沢の下りから一般登山道を離れてバリエーションルートの範疇となるが、降り口には登山道レベルの踏み跡が付いており、その先も登山道ベルの踏み跡が付いていた。ただ、上部は急角度の土の斜面なので滑り落ちないように気を遣う。 |
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降り口の踏み跡。 | このレベルの踏み跡が続く。 |
天上沢下部は雪渓が残っていたがアイゼンが必要なレベルではない。沢は完全に涸れており、本日の目的地である北鎌沢出合いまでひたすら水の涸れた天井沢を下る。 沢は途中2〜3カ所で二俣に分かれている所があるが、とにかくひたすら左側を進めばOK。しかし、この涸れ沢歩きが長いこと長いこと! 足元が石ゴロゴロで歩きにくいことも相まって「北鎌沢は何処だーーーーー」と叫びたくなるような気分。 |
天井沢下部に残っていた雪渓。雪渓の上を歩かなくても下れるが、雪の上の方が歩きやすそうなのであえて雪渓を下る。 |
水の涸れた天上沢 |
北鎌沢の出合いもまず見落とすことは無い。ひたすら天上沢を下っていき、最初に左上から駆け下りるように合流してくる沢が北鎌沢。 北鎌沢が合流している対岸に何カ所か整地されたテントスペースがある。 沢の中にあるスペースなので急な豪雨による増水などが気になるところではあるが、他に適当なスペースはないのでしょうがない。 このあたり、本流は伏流水になっていて水は流れていないので、必要な水は北鎌沢から取るが、水が豊富に手に入るのは非常に助かる。 この日、出合いにテントを張ったのは我々を含めて3パーティ8名 他の2パーティはいずれも名古屋方面のパーティで、4人パーティは我々と同じ行動計画、2名パーティは天候次第だが北鎌尾根でビバーク予定とのこと。 |
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テン場でくつろぐ仙人。 | 他の2パーティのテント |
8月12日 午前2時に起床し、3時20分に行動開始。水をどのくらい持つかで悩んだが、今日中に槍まで届かないことも考え、2人で3.5L持つことにした。 水は上部でも手に入るようだが、その年によって水が涸れていることもあるようなので出発時に汲んでいった。 |
北鎌沢ならヘッデンでもと軽く考えていたが、視界が効かないため右俣に確信が持てず、いったん登りだした右俣を分岐まで戻って左俣を登りだし、間違えに気がつきまた戻るという失敗をしてしまった。 右俣に比べると左俣のほうが圧倒的に沢が大きく、右俣は涸れ沢で幅も3mくらいしかないため間違えてしまった。 一休みして仙人が携帯のGPSで位置を確認し、最初に登りだしたのが右俣に間違いないことを確認したところで落ち着くために一休みしていたら、後から出発した4人パーティが追いついてきた。 挨拶を交わし、しばらくこのパーティの後ろから登ったが、パーティが小休止したところで再び我々が追い越す。分岐の状況から右俣は涸れ沢と思ったが、部分的に伏流水になっているようで、所々で流れが戻っていた。 持っている水を節約するため水の流れが戻ったところで水を飲んでみたが、降ったばかりの雨水がしみ出しているような感じで、あまり美味しい水ではなかった。 |
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順調に右俣を登り、明るくなったこともあってここから先はもう楽勝と思ったが、上部の分岐で草付きを左側にトラバースする妙にハッキリとした踏み跡があり、近くの大岩にはケルンまで積んである。 すっかりルートはこの草付きトラバースと思い込み、踏み跡に従ったがこれが大間違い。正しいルートはそのまま沢を直上。 登るにつれて踏み跡はハッキリしているものの急角度の草付き斜面となり、足元が滑るためかなり慎重になる。「バリエーション入門ルートにしては妙に悪いね」などと言いながら登っていくと、それまでハッキリとあった踏み跡がパッタリとなくなった。 左写真の涸れ沢を直上が正しいルートだが、正面のこんもりした尾根の末端を左にトラバースしてしまった。 |
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右の写真が踏み跡が途絶えたところから下を写したもの。 先頭の幻舞が仙人にルートを間違えたらしいことを伝え、仙人が確認すると右側の斜面にかすかな踏み跡がある。 のぞき込んでみれば斜面の下が北鎌のコル直下の草付きカール。 |
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幸い、灌木が密生していたため、灌木ターザンで斜面を降りて北鎌のコル直下の草付きカールへ。 | 北鎌のコル直下の草付きカール。ここも登山道並みの踏み跡がある。 |
北鎌のコルで大休止していると、下から「おーーーい」という声が。みると朝の4人パーティの先頭が声をかけている。やはり彼らも我々と同じようにルートを間違えたようだ。 彼らに灌木を利用してこちらに来られることを伝え、彼らが正しいルートに戻ったことを確認して出発。 ルートは明瞭で、前日の天上沢下降ルートの踏み跡から想像していたとおり、登山道並みの踏み跡がある。しかもフィックスロープまであるという念の入れよう。 |
独標が視界に入った頃、我々のいる小ピークの一つ先のピークに人影が見えた。 しばらくして大休止しているこのパーティに追いついたが、50歳代後半と思われる夫婦のパーティで、話をしてみると北鎌尾根は何度も縦走しているようだ。 今回は北鎌尾根末端から登り、今日で入山5日目とのこと。 湯俣から入り、末端からというのも凄いが、入山5日目というのも凄い。 我々が今日中に抜ける予定であることを話すと「こちらはノンビリペースなのであと何日かかるかな?」と涼しい顔。 |
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大休止している彼らに先行し、調子よく進んでいくと突然ルートを見失った。 最初は千丈沢側を少し下って巻くのかと思ったが、ガレが酷くて20mくらい降りたところでルートではないことが分かっていったん戻る。 ウロウロしていると、先ほどのパーティが追いついてきて、正しいルートを教えてくれた。 左の写真で腰に手を当てた鉢巻きの男性が入山5日目の人で、その先のヘルメットを被っているのが正しいルートにいる仙人。 男性がいる岩でその先が見えなかったためルートを見失ったようで、男性の位置まで行けばルートは一目瞭然。 この先の状況を聞くと、ここまでと同じような状況が続いていて踏み跡も同じようなレベルが続くとのこと。 |
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独標は一般的なトラバースルートを選んだが、基部のフィックスロープがあるところが崩れ落ち、どうしてもロープに頼らなければ越えられそうもない。 | 状況から、崩れたのはまだ最近のようだ。幻舞も仙人も体重は軽い方だが、フィックスロープはホームセンターで売っているようなナイロンロープ。体重をかけるには頼りないが、信用して進むしかない。 |
トラバースルートで有名な岩が覆い被さったところ。 | トラバースの踏み跡がプッツリと切れ、白いスリングがかかっていたたのでスリングを利用して稜線に登る。 クライミングとしてはV級くらいで難しくはないが、とにかく背中が重いのと、シューズがアプローチシューズなので緊張する。 |
独標の上に出ると、待望の槍ヶ岳がドーーーンと姿を見せた。 「おーーーーー!」と思わず声が出るが、同時に「まだあんな遠くなのか」と気力が萎えそうになる。 今回は背中が重く、この時点でかなり足にきているため余計に遠く感じ、本当に今日中にあそこまで到達できるのか不安になってくるが、いまさら泣き言を言ってもどうにもならないし、何とかがんばるしかない。 |
入山5日目の男性が言ったとおり、独標から先もルートは同じような状況が続く。 ただ、所々で踏み跡なのか、ガレ場が崩れて踏み跡のように見えているだけなのかよく分からないところがあるのと、踏み跡が途切れ、U〜V級レベルの登攀をして稜線に登らなければならないところがある。 一般登山道のように「ここが正解」というルートはないので、登攀しようとする岩壁の状況を見て、自分で「ここなら行ける」「ここは無理」という判断が求められるし、浮き石をホールドやスタンスに使わないように慎重に確認しながら登攀する必要もある。 登攀に近いようなルートは、仙人と幻舞で登るラインが違っていることが結構あり、どちらかというと幻舞は強引に、仙人はより確実なルートを選んでいるが、仙人が前を行く幻舞の様子を見ていて、あまり強引すぎるラインだと後ろから「そこ違うみたいよ」と声をかけてラインを修正させている。 嫌だったのがガレ,ザレがとにかく多いこと。ガレやザレは、技術云々に関係なく、足を置いたところが「ズルッ」といったら一巻の終わりだし、踏み跡なのか岩が崩れて踏み跡に見えているだけなのかいまいち確信が持てないなんてこともある。 ルートも、遙か彼方まで確認できるというわけではなく、近くまで行って、はじめてその先のルートが確認できるというようなところがほとんどなので、ルートだと思ってガレを降りていって、その向こう側が見えるところまで行ってみたら「違ってました」で、また嫌らしいガレをヒヤヒヤしながら戻るのはほんとに怖い。 ここから先、細かい状況までは覚えていないので、時系列順に写真を並べる。なお、写真は時間順に左,右となっている。 |
14時に北鎌平まで到達、ここまで来れば今日中に槍ヶ岳に抜けられることはまず間違いない。 ここから先は足元の岩もしっかりしているし、ルートも尾根通しなので考える必要もない。 気になっているのが大槍の登攀ルート。事前にいくつかのHPを調べてみたが、大槍の登攀ルートを明確に示したものが無く、見つけられたのは部分的な写真ばかり。 大槍の登攀で行き詰まってにっちもさっちもいかなくなったという情報も目にしたことはないので「適当に行けば登れるんだろう」くらいに考えていた。 右の写真は北鎌平。テントが5〜7張りくらいは張れそうなスペースがある。 |
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ルートを振り返る。 | もうひとがんばり。 |
気になっていた大槍の登攀ルートだが、踏み跡をたどって行けばOKだった。 特に「ここ以外は登れない」というような状態ではなく、踏み跡がザレに付いていたりすると、ザレを避けて登れそうなところから適当に登攀したが、特に緊張するようなところもなかった。 |
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有名(???)なチムニーはたぶんこれ。 | 左のチムニーの次にあったチムニー。 |
穂先までもう一歩の仙人。 | 記念撮影。左の人は関係ない人です。 |
15時40分、槍ヶ岳山頂に到着。北鎌沢でルート間違いによるタイムロスなどもあったが、北鎌沢の出合いから約13時間で到着した。 山頂の祠のちかくから先頭の幻舞が頭を出すと、山頂にいた人がいきなり「でた!」と一言。幻舞はお化けじゃありません。 山頂には10人くらいの人がいたが、変なところから登ってきた2人組に興味津々のようで「どっからきたんですか?」という質問が飛んできた。 なかには、北鎌尾根に強い興味を持っていて「北鎌ですか。凄いですねーーー」という声やら、いつか自分も縦走してみたいからと、ルートについての情報を色々と聞いてくる人もいたりして、おじさんコンビはちょっといい気分。これも北鎌尾根の楽しみの一つかもしれない。 一息入れたところで山頂から縦走路を振り返ってみたが、我々と同じく今日中に槍に抜けると行っていた4人パーティは山頂からは確認できず、見えたのは北鎌のコルのまだかなり手前を歩いているらしいヘルメットが2つ。 この時間でまだ視界に入らないということは、予定を変更して稜線上でもう一泊することにしたのかもしれない。 まあしかし、とにかく体力的にきつかった北鎌尾根だった。 さて、北鎌尾根だが、実は幻舞は今回と全く同じルートで数年前のGWに縦走したことがある。この時は、縦走中もその後も、どうも納得できないというか、ある意味不愉快な思い出が残ってるため、仙人に「夏の北鎌付き合ってくださいよ」と前から騒いでいて計画したものだ。ちなみに、百戦錬磨の仙人は今回は初の北鎌尾根。 今回の縦走で、仙人と幻舞の共通した感想は「二度目はないな」だった。 このルートは、ザレ場が多く、その分だけ足元が崩れて滑落というリスクばかりが大きく、技術的には約15kgのザックを担いでいても登攀用具の出番は全くな登れるレベルの難易度しかない。ただひたすら長くて疲れるルートだ。 *あくまでも仙人と幻舞の感想であって、当然ですが人によって感じ方はそれぞれです。 このルートを気持ちよく縦走しようと思ったら、まず天気がいいこと。晴れている必要はないが、十分な視界が確保できる気象状況であることが第一条件だと思う。 それから、背中は極力軽くすること。体力的な問題以外にも、登攀に近い行為が随所に出てくるので、背中が重いとバランスが取りにくく、実際以上に難しくなってしまう。 技術的には、ルートのほとんどは、かなりハッキリした踏み跡が付いているので基本的なルートファイディングができれば大丈夫だと思う。 問題はクライミング技術で、このルートに精通した人がパーティにいれば簡単なルートから登れるらしいが、今回の我々のように事実上の初体験だと「見えるところまで行ってみなければその先はどうなっているのかわからない」という状況が発生し、ある程度のクライミング技術がないと「登りはじめたのはいいけど、行き詰まってしまってどうにもならなくなっちゃった」なんてことになりかねない。 少なくとも、初めてのバリエーションルートとして北鎌尾根を選んだ場合は、単独は避けた方が無難だと思う。 山頂を踏むとそれまでの緊張が一気に無くなり、あげくに山頂にいた人から「肩の小屋のテン場は一杯で殺生まで行かないとテントは晴れませんよ」という情報をいただき、ダブルパンチでヨタヨタしながら梯子を降りる。 テントで一杯の肩の小屋のテン場を恨めしそうに横目で見つつ下る殺生小屋までの道が長いこと!!!! 予定では、3日目に子槍の登攀を考えていたが、殺生からまた登り返す気力もなくなり、そのまま下山することに。クライミングギアはザックの重りとなってしまった。 |
8月13日(朝ガス,7時ころから快晴のち曇り) 結局、一晩寝ても足の疲れは取れなかった。特に幻舞が酷い。太ももの痛みでまともに歩けない状態で、仙人からストックを借りてヨタヨタ、ノロノロと槍沢の登山道を降りる。 仙人は・・・・・・写真の足元に注目! 北鎌で履いていたシューズはサイズが小さいので足が痛いからと、本日はこんな履き物で歩いている。 仙人に言わせると「足の指を石にぶつけないように注意していればこれで十分」だそうだ。 |