白馬岳主稜

参加メンバー:仙人,幻舞

行動計画  :2009年4月18日 二股〜猿倉〜白馬岳主稜〜白馬岳山頂〜白馬大雪渓(スキー)〜猿倉〜二股


 初中級レベルの雪稜として人気の白馬岳主稜、人気ルート大好きの幻舞が「いちど行ってみたい」と騒いでいた。ただ、残雪期どころか、厳冬期の主稜の登攀経験のある仙人にとっては若干物足りないし、人気ルートなだけにGWは混み合うことが予想されたため、GW前の4月18日に、ちょっとスパイスをプラスして大雪渓をスキーで降りることにして、日帰りでチャレンジすることにした。


 今回悩んだのが装備をどうするか?

 この時期は、車が入れるのは二股まで。二股から歩いて日帰りというのは、歩行距離が長い分、かなりきついスケジュールだし、時期的に先行者のトレースはほとんどあてにできない。

 ビバークの可能性が高くなるため、ビバークを想定した装備は必要になるし、これにプラスしてスキー板も担ぐことになる。考えた末の装備が以下の通り。思い切ってロープは持たないことにした。


・エアマット     ・シェラフカバー    ・ULダウンジャケット       ・バーナーとコッヘル ガス250g缶
・スコップ      ・ハーネス       ・シュリンゲ(240cm×1 120cm×2)  ・カラビナ 3
・ピッケル 50cm×2  ・アイゼン       ・ヘッデン             ・ヘルメット 
・スキー板(ショートスキー)          ・ストック

 なお、スキーは担いで登攀することになるため、少しでも背中を軽くするためにショートスキーにした。



4月18日(快晴) 

 予定通り、二股に1:30到着。早々に準備して2:00に行動開始。ここから猿倉まで1時間半の長い林道歩き。猿倉に到着し、幻舞は履き物チェンジ。

 下山は大雪渓をスキーで滑り降りるため、足は兼用靴となるが、さすがに舗装された林道を1時間半兼用靴で歩くのは辛すぎるので、幻舞はここまでスニーカーで歩いてきていた。猿倉から雪上歩きとなるので、ここでスニーカーを兼用靴に履き替え、スニーカーはビニール袋に入れてここにデポ。

 白馬主稜を兼用靴で登るのはちょっときついかとも思ったが、アイゼンを履いてしまえば何とかなるだろうという判断。仙人は、軽量のスキーブーツを担ぎ、足は登山靴。

      
   

 4:50に白馬尻に到着。左の写真の尾根が主稜の末端部。予想通り我々以外に人影はない。

 正面の斜面を直登して尾根に出る。

 白馬岳主稜初見参の幻舞は、この先の緊張と恐怖を知るよしもなく、あこがれの主稜登攀にルンルン気分でおおはりきり。
     
 

 尾根に出て、しばらくはクレパスを避けながら歩く程度だったが、だんだんと斜度は増し、尾根は細く、全く気を抜けない状況が続くようになってきた。

 もう引き返すことは不可能。とにかく山頂に抜けるまで進むしかない。誰だよーーー、雪稜入門ルートだって言ったのは。


   

 こんな尾根がずっと続くんだったら楽なんだけど、気持ちよく歩けるのはほんの一部分。


 
 
   
 
 
 とにかく緊張の連続。両手に持ったピッケルを根本まで雪に刺し、ガッチリ効いていることを確認して足を進める。アイゼンを蹴り込み足場が安定したことを確認し、片手のピッケルを抜いてまた雪に刺す。ひたすらこの繰り返し。場所によっては、雪稜の向こう側にピッケルを刺し、足はこちら側と、雪稜を手と足でまたぐような形で進むこともあった。

 更に悪いことに、時間の経過とともに雪が緩んできた。疲労も増すし、足元の雪が崩れる可能性も出てくる。当然スピードはがた落ちとなり、ビバークが頭をよぎるようになった。

 気持ちは焦るが、ピッケルの効きと足場の安定確認をおろそかにしたら、どう落ちてもタダでは済まない。とにかく、一歩一歩確実に登るしかない。


     

 目の前のナイフリッジを「ここを過ぎれば楽になる」と思いつつ目一杯緊張しながら通過すると、前にも増して緊張する雪稜が出てくるということの繰り返し。

 結局、普通に歩けるような雪稜はごく一部で、最後まで緊張の連続だった。


 
   


 ビバークも覚悟したが、14:30に山頂直下の雪壁の下まで到達した。この時間ならビバークせずに済みそうだ。

 登ってきたルートを見ると、いつの間にやら後続のパーティが見える。後続パーティはテントを設営しているらしく、稜線で一泊するようだ。

 さて、問題は最後の雪壁、特に雪庇の状況が心配だ。雪庇が切れている場所がなければかなり厳しい登攀となる。慎重に雪壁と雪庇の状況を観察すると、1カ所雪庇が切れているところが見つかった。下の写真で右のほう。

 雪庇が切れている幅は2mくらい。他に登攀できそうなラインはなく、このラインを上ることにして、最後の登りに備えて大休止。



 幻舞から登攀開始。出だしは50°くらいの雪壁だったが、登るにつれて角度が増していく。特に最後の5mは急角度で、ガイドブックには最大で60°と書いてあったが、体感では垂直、たぶん70°はあったと思う。

 ロープがないため、ワンミス即滑落となる。ここで滑落すれば、ほぼ確実にあの世行き!

 一ノ倉沢本谷のスキー初滑降や、幽の沢3ルンゼ冬期初登攀など、何度も修羅場を経験している仙人はともかく、にわかクライマーの幻舞はびびりまくり。

 とにかく、気持ちは一刻も早く安全圏に抜けたくて焦り、結果ピッケルの打ち込みが甘かったり、足場が不安定だったりしてもそのまま登りたくなるが、その焦る気持ちを抑え、1動作ごとに確認し、少しでも不安があればピッケルを打ち込み直し、アイゼンを蹴り込んで足場を作り、確実に登っていく。

 山頂の雪面に、満身の力を込めて右手のピッケルを根本まで打ち込んだ瞬間の正直な気持ちは
「生きてた」

 
稜線に出たのが5:00、山頂が15:00で、緊張しっぱなしの10時間だった。
 
   
  15:10白馬岳山頂。

 必死で登攀した山頂で、景色を堪能しながらノンビリしたいところだが、天気はいいものの、強風と寒さでとてもノンビリできる状況ではない。

 白馬山荘まで降りてから休憩を取ることにして、ひとまず山荘に向かう。
 


 風のあたらなそうな場所を探し、ザックを下ろして休憩。

 明るいうちに白馬尻までは降りたかったので、15分くらい休んで下山開始。最初は頂上山荘からスキーで滑る予定だったが、大雪渓は全面アイスバーンになっていて、ショートスキーで滑るには危険なため、途中までアイゼンで下り、雪の状況が良くなってきたところでスキー滑走開始。


   


 ギリギリ、ヘッデンお世話にならずに猿倉に到着。ここから車まで長い林道歩きが待っている。途中で春の味「蕗のとう」など取りつつ、20:30に車に戻った。

 2:00に行動開始してから17時間半の長い長い一日だった。
 




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