深い淵 白髭 この淵をゆるりとさぐる。
足にからんでくる深い水流を、
起こしてはならない。
この淵の静けさを渉る。
湧き上がる水紋になじんで、
足を出していこう。
磨かれた倒木をすりあげて、
ひとつとして間違うな、
胸の鼓動。
騒ぐな、乱れるな、
二本の足と手を信じよ。
私の呼吸。
次の一歩、その次の一歩。
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時折りの風は、
ひやりと冷たく、
紅葉の木の葉と舞ってくる。
ザイルの下から、
右だ、左だと、
行き先を操る声がする。
森の奥から、
静かな水音が聞こえてきて、
息遣いの荒さをぬぐってくれた。
高さが増すごとに、
地上から離れていく心地よさは、
登るほどに軽くなるようだ。
目の前に一枚、
赤い楓がふわりと浮いて、
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