ゲレンデの事故


 12月中旬、某所にあるフリークライミングのゲレンデに仙人と仙女、幻舞の3人で出かけた。目的は来るべき冬に備えてのアイゼン登攀トレーニング。

 10時半頃に着いたが、駐車スペースはすでに満車。この時期でこの混み方はちょっと珍しい。かろうじて一台分のスペースを見つけて何とか車を止め、徒歩10分のゲレンデに向かう。

 ゲレンデでは、山岳会とおぼしき集団がなにやら講習会の真っ最中。メンバーは見た感じで50歳代と思われる男女が15人ほど。駐車スペースが一杯になっていた理由はこれだった。この集団は、某山岳組織の支部。

 この山岳会、電動ドリルまで持ち込んでいて、岩に穴を開け、数本のハンガーボルトを埋め込み始めた。どう見てもルート開拓には見えないし、何が目的なのかと思って聞いてみると、緊急対応訓練のアンカーにするために設置しているという。

 ルートは設定されていない場所であるし、古いリングボルトも2〜3本打ち込まれているし、フリークライミングには全く影響しないと思われるが、この行為は問題ないのか疑問を感じた。

 自然に存在する岩壁を登る時には、ボルトの設置などの人工的な加工は一切施さず、あるがままの姿を維持できる安全確保の手段を取るのが理想であると思うが、そのような手段がないため、やむを得ず安全確保のためにボルトを設置しているわけで、そうである以上は、幻舞としては恒久的なボルトの設置は、安全確保に必要な最低限度にとどめ、よく考えて慎重に設置すべきで、いち山岳会の、一時的な講習のために安易に設置するべきではないと思う。

 ちょうど、この山岳会と隣り合わせのような位置関係になったため、見るとはなしに見ていると、どうもメンバーの大半は初心者で、ロープを付けての登攀も今日が初めてとか、数回目とかいうレベルのようだった。

 そのうち、山岳会から2名が、我々がトップロープを張っていた場所のすぐそばに来て、ビレイしている幻舞からわずか
1mの所をリードで登り始めた。ビレイヤーはどうみてもド初心者で、ビレイ器もエイト環を使っている。リードしている先輩らしき人も、口だけは勇ましいが、かなり危なっかしい登りかただ。

 落ちてきたら幻舞に激突するのは必至なので、巻き添えはごめんということでビレイ位置を移動。

 件の2人はトップロープを設置し、リードしていた先輩に変わって、これもド初心者のおばちゃんが登場。先輩は何処かに行ってしまって、ド初心者のおばちゃんとおじちゃんのパーティができあがった。この2人でトップロープで練習するという。いくらトップロープでも、ビレイもろくにできない者同士で登らせるって・・・・・・

 おばちゃんビレイで登攀開始。と、おじちゃん曰く「
ちゃんとビレイできてるか確認するために途中で落ちてみるからね」っておい!

 落ちてみて、ビレイできていなかったら大怪我するだろうが!と幻舞が心の中で叫ぶのと同時に、ほんとに
おじちゃん落ちてみた。つま先が地面に触れるグランドギリギリで止まったものの、見ているこっちが冷や汗もの。でもおじちゃん平然と「ロープがピンと張ってこれ以上落ちないからちゃんとビレイできてるね」と涼しい顔。

 もうあちらさんのことは、見ざる聞かざるということにして、仙人はお昼の用意で、幻舞は仙女のビレイ。

 仙女が2/3ほど登ったところで
ドスンという鈍い音が!とっさに振り向くと、山岳会の別のおじさんが滑落し、尖った岩がゴロゴロしている斜面を転げ落ちたところだった。

 幻舞が目撃したのは、停止する前の2秒くらいだったが、状況は2〜3mくらいの高さにテンションでぶら下がっていたおじさんが、何らかの理由でロープがすっぽ抜けて滑落し、落ちた地面が岩ゴロゴロの斜面だったため、そのまま転がり落ちて、合計で5mくらい落ちたようだ。

 滑落したおじさんは、「うおーーーっ」といううめき声を上げている。かなりの重傷のようだ。メンバーはパニックになっている。事故直後、リーダーの最初の一声は「
なにやってんだ!」という怒鳴り声だった。

 救助を要請したまではいいが、ヘリコプターが云々という話をしている。みかねた仙人が「この場所ではヘリでのピックアップは無理だから、とにかく道路まで運び出すしかない」とアドバイス。救助要請したことを確認し、救急隊員の案内に誰か道路で待機させるように指示。山岳会と全く関係のない別のパーティのリーダーも、テキパキと指示を出していく。

 ゲレンデに来ていた他のクライマーも、事故を知ってクライミングを中止して集まってきた。山岳会の人数が多いため、特に手を貸す必要はないようなので、遠巻きに見守るのみ。

 そのうち救急車が到着し、担架を持った隊員がやってきた。道路からゲレンデまでの狭いアプローチ道で、担架を持った隊員とすれ違いになると行動の妨げになると判断し、ゲレンデにとどまっていたクライマー達が足早に引き上げていく。

 車に戻ったところで、仙人,仙女,幻舞は近くで事故を見ていたということで、警察から見ていた状況や住所などを聞かれた。

 事故が起きてしまった今となっては、事故者の一日も早い回復を願うほかないが、いろいろな意味で考えさせられる事故だった。
 






登山者のレベル


 ある日、mixiを眺めていてふと思った。「ここに色々と書き込んでいる人たちは、自分の登山に関するレベルをどのように考えているんだろう?」って。

 原因は、常に上から目線の書き込みをしている一部の人たち。書き込みを読めば、この人達は自分のことを「上級者、それも上の上」と思っていることは読み取れるが、では実際どの程度の経験値があるのか?ということになると、具体的な山行経験などは全く書いていないのでさっぱりわからない。せいぜい「登山歴は20年」といった程度。

 その前に、何をもって「上級者」とか「初級者」って判断してるんだろう?アルパインクライミングだと客観的に判断できるが、トレッキング(一般登山道のみを歩く登山者)だと非常に曖昧であると思う。

 アルパインクライミングの場合、ほとんどのルートには「ルートグレード」と「ピッチグレード」というレベルが付いていて、ガイドブックなどに記載されているので、自分が登攀したことのないルートでもグレードを見ればおおかたの想像は付く。

 このレベルは、大勢のクライマーが登攀していく中で判断され、修正されてきたものであるため、同じグレードのルートなのに実際のレベルが極端に違うということもない。(得意不得意等によって多少の体感差はある)

 よって、自分がいままで登攀したルートのグレードによっていやでも自分のレベルはわかってしまう。私の場合だと、今まで登攀したルートで最難関は、ルートグレード4級,ピッチグレードX級で、しかも自分がリーダーではなく、仙人師匠に連れて行ってもらっているので、レベルは「初級者にちょっと毛が生えた」程度。

 仙人師匠は、冬期初登攀記録もあるし、過去に登攀したルートなんてそれこそ数え切れない(もちろん厳冬期も)し、山の雑誌に名前が出たこともあるくらいだから、これは文句なしに「上級者」。

 仙人師匠に興味のある方は、古本屋で「岩と雪 116号」を探してください。谷川岳一ノ倉沢本谷の初滑降記録がカラーページに写真入りで載ってます。他にはロック&スノーの41号にも名前と記録が載ってます。


 ではトレッカーの場合はどうなるんだろうか?一般的には「登山歴」が長いほど「上級者」とされているようだ。登山歴が長いということは、それだけ色々な山に登っているということで、その分経験も豊富、ゆえに上級者ってことなんだと思う。
 
 あとは、トレッキングのガイドブックに「上級者向き」と書いてあるルートに行けたとか、山と高原地図の点線ルートをいくつも歩いているとか。

 
でもホントにそお????

 私もクライミングに手を出す前は自分のことを「上級者」だと思っていた。理由は、ガイドブックに上級者向きとされているルートや、山と高原地図の点線ルートを普通に歩くことができたから。

 体力も、夏の北アルプスならテン泊装備を担いでも、山と高原地図のコースタイムの7〜8割程度で無理なく歩けるだけのものはあったし。(GWに13時に槍ヶ岳肩の小屋から下山して、その日のうちに上高地から沢渡行きの最終バスに乗れたし・・・ってさりげなく体力自慢してみました)

 しかし、いくら難路とか点線ルートなんていったって、一般登山道には違いないわけで、ちゃんと「道」が付いているし、道標やペイントマークはあるし、登り降りが困難な岩場には鎖や梯子が付いている。

 要は「慣れ」の問題で、必要な装備を担いでそのルートを歩ききるだけの体力と、50歳代男性の平均的な運動能力レベルの能力があれば、高所恐怖症とかでもない限りは誰でも行けると思っているし、必要な経験値(マナーとか、適切な装備を調えられる知識とか)も年間に日帰り10日,2泊3日が1回の山行を行っていれば、3〜4年で十分身につけられると思う。

 一般登山道ばかり歩いている人は「俺は登山歴20年の大ベテランだ!」なんて言ってみても登った山の数が多いと言うだけで、技術的に見れば、登山歴5年とたいした違いはない(と私は思う)

 べつだん、自分で勘違いしている分には全く問題ない(結果としてどうなってもそれは自己責任だし)が、ネットという公の場で不特定多数の人に向かって「技術的アドバイス」を発信するのは問題だと思う。

 自分では「正しい」と思っていても、現実には「??????」ってこともあるだろうし、ガイドブック等で仕入れた知識をあたかも自分が経験したことのように最もらしく書かれると、それが間違った(その状況では適切ではない)アドバイスであっても、経験の少ない人はすっかり信じ込んでしまい、これが原因で事故や事故とまでは行かなくても危険な状況に陥ってしまうことも十分考えられる。

 また、普通の一般登山道を極一部の上級者しか歩けない「超難関ルート」なんて思い込んでいて、掲示板等で盛んに「超難関ルートだ」って吹聴しまくっているような奴もいる。

 さらに始末の悪いことに、この手の輩は周りから「あなたのレベルはたいしたことないんですよ」というシグナルを投げかけても全くそれと気付かず「俺は上級者」という優越感にドップリと浸かって、自分の世界から出てこようとしない。

 mixiのような、アドバイスする側の実力がハッキリしない(経験値についてもどこまで本当だかあてにならないし)場所で、技術的なアドバイスを求めるのはよく考えた方がよさそうだ。



 
栗城史多

 なにかと話題(悪い方で)なっているこの人物、なんでこんなに叩かれるのか?と思って調べてみたら・・・・・幻舞が調べた限りでは「まあ無理もないわ」というのが正直なところ。

 とにかくこの人物、脇が甘いというか、自分をわかっていないというか・・・・TVで取り上げられて天狗になっちゃったのかな?という感じ。

 K2サミッターの服部氏がTVで栗城氏(&野口氏)のことを「市民ランナーレベル」「3.5流」と評していたが、全くその通りだと思う。

 6大陸最高峰、8000m単独無酸素といっても、それはベストシーズンのノーマルルートからであるし、ベストシーズンのノーマルルートで「単独」ということについては、ロック&スノー31号で池田常道氏が「トレースがあり、フィックスロープがセットされたルートで単独ということはあり得るのだろうか?」と書いていた。(幻舞には大陸最高峰どころか、海外の山に登った経験すらないのでこの辺の定義については一流登山家の意見をそのまま拝借する)


 アルパインにおける「単独」とは、ベースキャンプから上は他者の助けを一切借りない(当然セットされているフィックスロープや梯子等も使わない)という定義があるそうだが、この定義からすれば登山者が集中する「ハイシーズン&ノーマルルート」での「単独」は、かなり困難であると思う。(NHKグレートサミットでマッキンリーを見たが、各キャンプ地ともテント村状態だったし、視界から他の登山者が見えなくなることはなかった。番組の中では登山経験の少ない若い女性も登頂していた)

 ただ、この定義は登山の歴史の中でできあがってきたものであって、他のスポーツのように「ルール」として定められたものではないそうだ。だから、極端な話し、幻舞が「俺の単独とは1人で山頂を踏むことで、山頂直前までの手段は問わない」と決めて、山頂直前までヘリコプターで運んでもらって、最後の10mくらいを自分で歩いて登って、ネットなどで「単独登頂した」と発表しても「嘘ではない」ことになる。

 幻舞がこの手段で「単独登頂」を騒いだとしても「馬鹿が騒いでるよ」くらいでなんの問題も起きないだろうが、栗城氏がアルパインでいうところの「単独」とは違う定義で、TVという個人のブログやHPとは全く比較にならない影響力の大きいもので、今流行のどや顔で「単独無酸素」ってやったら、命を賭けて単独無酸素に挑んでいる登山家は「ふざけるな!!!」って激怒するのもうなずける。

 栗城氏の登山がアルパインでの「単独」にあたらないことは2ちゃんねる等で色々と指摘されているが、幻舞が確認した範囲でも3回目のエベレスト挑戦の時、アイスフォール通過にアルミ梯子の「橋」を渡っていた。これでもうアルパインの「単独」はアウト。(栗城氏が独力でアルミ梯子の橋を設置したのなら話しは変わるが、まずそれはあり得ないでしょう)

 あと記憶が曖昧であるが、登山中ベースキャンプに翌日の気象状況を問い合わせていた。ベースキャンプへの気象状況の問い合わせについては、故長谷川氏がグランドジョラス北壁冬期単独登攀の時も問い合わせていたが、(ビデオを見た限りでは)長谷川氏の場合は「天気図」を聞いていた(低気圧が何処にあるかみたいな)のみで気象判断は自分で行っていたが、栗城氏はそのものズバリ「天気予報」を聞いていた。

 栗城氏は「単独」なんて紛らわしい表現をしないで、素直に「ガイドレス」と言えばいいのにと思う。あくまでも「単独」を主張するのであれば、もう少しばれないように上手にやらないとダメでしょ。

 そのくせ、ブログやらツイッターやらで「エリザベス・ホーリーさん達にほめられた」なんて紛らわしいことを書き、疑問を持った人がホーリー女史に直接メールを送って確認し、「栗城氏と会ったのはスタッフで、(ホーリー女史は)直接会っていない。(登山を)記録するのみで評価(ほめる等)はしない」と返信があり、これを2ちゃんでさらされていたりと非常に「脇が甘い」(ホーリー女史のメールに関しては真偽のほどは未確認)

 服部氏の発言でも「テレビに出ると自分をよく見せようとして人を悪く言う」みたいなことを書き、これも攻撃の対象になっていた。これだって「服部氏にせめて2流と言ってもらえるくらいになるように精進します」とか書けば「おー、大人の対応できるじゃん」ってことになっただろうに・・・・・

 マスコミから見れば、登山の内容がどうであれ、注目されて視聴率が稼げればそれでいいんだろうけど、登山を全く知らない人たちが栗城氏に「勇気をもらった」とか言って祭り上げている今はともかく、そのうち実態がわかってきて離れていき、全く注目されなくなったときにどうなるかを考えると、人ごとながら栗城氏が哀れに思えてくる。

 (最後には「単独無酸素の嘘を暴く」とかの番組を作っちゃったりして。今のマスコミを考えるとありそうだから怖いよね)
 





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